ふちどり

後ろ見ながら前に進む、僕の日記。

全部捨てる


ひとり暮らしの僕が、持ち物を全部捨てるのはさほど難しくなかった。なぜなら、何も選ばなくて良いからだ。こまごました物たちは少しずつ近所のゴミ捨て場に出し、大きな家具や家電はリサイクル業者に引き取ってもらった。


あっけないものだった。

一週間ほどで部屋には何もなくなった。空っぽになった部屋の真ん中に、財布と鍵とスマホを置いてみる。これまで狭い狭いと思っていたこの部屋がこれほど広かったなんて知らなかった。入居する前にも空っぽの部屋を見たはずだけど、思い出せなかった。

僕はなんて多くの物をこの部屋に詰め込んでいたんだろう。


全てを捨て終えると、不動産屋さんに行って新しい部屋を探した。

一度も降りたことのない知らない駅から徒歩10分のところにある、畳敷きで8畳ひと部屋のアパートに決めた。次の日にはもう引っ越しをしたい旨を伝えると、不動産屋さんはかなり驚いていた。怪しい人物だと思われただろうか。

 

何も持っていかない引っ越しは、あまりにも簡単だった。

なんでもないふうに電車に乗り込んで、なんでもないふうに電車を降りて、少し歩いて、新しい家の扉を開ける。

ただ、それだけだった。